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山口地方裁判所下関支部 昭和41年(ワ)339号 判決 1969年4月22日

原告

大西利雄

ほか三名

代理人

西田信義

被告

小倉聯合紙器運輸株式会社

ほか一名

代理人

畑尾黎磨

被告

朝陽物産株式会社

ほか二名

代理人

木下重範

主文

被告渡辺敏雄、同渡辺定子は、原告大西栄に対し各金五〇万円、同越智房好に対し各金二五万円、同越智としえに対し各金二五万円及びこれらに対する昭和四一年四月三〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による各金員を支払え。

原告大西栄、同越智房好、同越智としえの被告渡辺敏雄、同渡辺定子に対するその余の請求及びその余の被告らに対する請求及び原告大西利雄の被告らに対する請求はこれを棄却する。

訴訟費用は、原告大西利雄と被告らとの間においては、被告らに生じた費用の五分の一を同被告の負担、その余は各自の負担、原告大西栄と被告渡辺敏雄、同渡辺定子との間においては原告大西栄に生じた費用の三分の一を被告渡辺敏雄、同渡辺定子の負担、その余は各自の負担、原告大西栄とその余の被告らとの間においては同被告らに生じた費用の五分の二を同原告の負担、その余は各自の負担、原告越智房好、越智としえと被告渡辺敏雄、同渡辺定子との間においては原告越智房好、同越智としえに生じた費用の三分の一を被告渡辺敏雄、同渡辺定子の負担、その余は各自の負担、原告越智房好、同越智としえとその余の被告らとの間においては同被告らに生じた費用の五分の二を同原告らの負担、その余は各自の負担とする。本判決中原告大西栄、同越智房好、同越智としえ各勝訴の部分に限り仮にこれを執行することができる。

ただし被告渡辺敏雄、同渡辺定子において、原告大西栄に対し各金二五万円、同越智房好に対し各金一二万円、同越智としえに対し各金一二万円の各担保を供するときは、右各執行を免れることができる。

事実

(原告らの求める裁判)

「一、原告大西利雄に対し、被告小倉聯合紙器運輸株式会社、同高橋宏並びに同朝陽物産株式会社は各自金八万〇、五七四円、同渡辺敏雄並びに同渡辺定子は各自金四万〇、二八七円及びこれらに対する昭和四一年四月三〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による各金員

二、原告大西栄に対し、被告小倉聯合紙器株式会社、同高橋宏並びに同朝陽物産株式会社は各自金九〇〇万三、四〇〇円、同渡辺敏雄並びに同渡辺定子は各自金四五〇万一、七〇〇円及びこれらに対する昭和四一年四月三〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による各金員

三、原告越智房好に対し、被告小倉聯合紙器株式会社、同高橋宏並びに同朝陽物産株式会社は各自金二一〇万二、五〇〇円、同渡辺敏雄並びに同渡辺定子は各自金一〇五万一、二五〇円同びこれらに対する昭和四一年四月三〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による各金員四、原告越智としえに対し、被告小倉聯合運輸株式会社、同高橋宏並びに同朝陽物産株式会社は各自金二一〇万二、五〇〇円、同渡辺敏雄並びに同渡辺定子は各自金一〇五万一、二五〇円及びこれらに対する昭和四一年四月三〇日から支払ずみに至るまで年五分による各金員

を支払え。

五、訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言。

(被告らの求める裁判)

「一、原告らの請求をいずれも棄却する。二、訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決並びに担保を条件とする仮執行免脱宣言(被告小倉聯合紙器運輸株式会社並びに同高橋宏を除く。)

(原告らの主張する請求原因)

一、(本件事故の発生)

昭和四一年四月二九日午前六時四〇分頃、山口県厚狭郡山陽町大字山野井字大道畑一三六四番地附近の国道カーブにおいて、下関方面から小郡方面に向け進行中の被告高橋宏運転の大型貨物自動車(以下甲車という。)と小郡方面から下関方面に向けて進行中の訴外渡辺到運転の普通乗用車(以下乙車という。)とが正面衝突し、乙車は一、五米下の大正川に転落して大破したが、右衝突事故により右渡辺は即死し、同乗していた訴外大西啓視並びに同越智富子も同日中死亡した。

二、(被告高橋宏並びに訴外亡渡辺到の過失)

本件事故は、被告高橋宏の前方不注視による過失並びに訴外亡渡辺到のカーブを曲る際における中央線を越えた過失とに基因するものである。<以下省略>

理由

(請求原因一――本件事故の発生について)

請求原因一の事実についてはすべて当事者に争いがない。

(請求原因二――被告高橋宏並びに訴外亡渡辺到の過失について)

一、請求原因二の事実中本件事故が原告主張の如き訴外亡渡辺到の過失に基因することは、原告らと被告朝陽物産、同渡辺両名との間に争いがない。

二、次に被告小倉聯合紙器、同高橋との関係において、被告高橋の過失の有無等について検討する。

<証拠>によれば、被告高橋は本件事故現場附近の国道(幅員約七、五〇米)を下関方面から小郡方面へ向け時速約四五粁の速度で大型貨物自動車(甲車、日野六〇年型、八屯車、車幅約二、四五米、車長約八、一五米)を運転して進行中、前方約一〇〇米の地点に対向して来る亡渡辺到運転の普通乗用車(乙車、プリンス六五年型、車幅約一、五〇米、車長約四、一〇米)を発見したのであるが、やがて右曲りのカーブ(半経約一三一米で描く比較的緩やかなカーブ)に差しかかり、右道路の左側部分のほぼ中央部分を前記速度のまま進行していたところ、法定最高制限速度である時速六〇粁をはかるに超える高速で右道路の右側部分(甲車からみて)を進行して来た右渡辺運転の乙車が自車の前方約十数米の地点まで接近した際突如中央線を越えて自車右前部に突進してくるのを発見し、衝突の危険を感じ直ちに急制動をかけるとともに把手をやや左へ切つたが間に合わず、甲車の右前車輪附近に中央線を越えたまま前記速度で進行して来た乙車(右渡辺が危険を感じて急制動等これを避けるための措置を取つた形跡はない。)が激突したことを認めることができ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

してみると、前記認定の如き近接した距離において、突如中央線を越えて前記認定の如き高速で突入して来た乙車との衝突を避けるための措置を、被告高橋に期待することは到底不可能というべく、また、右の如き対向車があることまで予測してこれとの衝突事故を避けるため予め徐行するなどの注意義務が被告高橋にないことは論をまたない。

従つて、本件事故は専ら亡渡辺到の過失に基づくものというべきである。

(請求原因三――被告渡辺両名の相続について)

請求原因三の点については、原告らと被告渡辺両名との間に亡渡辺到の相続関係については争いがない。

(請求原因四――被告会社らの地位について)

請求原因四の事実中、被告小倉聯合紙器が本件事故当時甲車の運行供用者であつたことは原告らと同被告との間に、同じく亡渡辺到が本件事故当時乙車を運転していたことは原告らと被告朝陽物産との間に争いがない。

そこで、被告朝陽物産が本件事故当時乙車の運行供用者であつたか否かの点について考えてみるのに、<証拠>によれば、亡渡辺到は被告朝陽物産の業務執行のため同被告所有の乙車の使用を許されていたが、これを私用に供することは一般的に禁止されていたところ、右渡辺は本件事故の前日である昭和四一年四月二八日業務に乙車を使用した後、乙車を私用に供することについては何ら許可を受けることなく、同日午後一一時五〇分頃友人亡大西啓視を伴つて下関市内のバーに赴いたのであるが、翌二九日午前零時四〇分頃右亡啓視並びに右バーの従業員である亡越智富子及び同店に居合せた八木英子、久保英幸らを誘つてドライブに出かけ、山口県徳山市附近で折返し下関への帰途本件事故を惹起したものであることができ、他に右認定を覆すにたる証拠はない。

右認定事実によれば、亡渡辺到の乙車の運行は、深夜被告朝陽物産に無断でその業務執行とは何ら関係のない娯楽を目的としてなされたものであるばかりか、同乗者たる亡啓視並びに同富子は右被告とはなんらの関係もなく、又同乗自体右渡辺到との私的な関係に基づくにすぎないことが明らかであるから、右渡辺到の乙車の運行は被告朝陽物産の利益のためでなく専ら右渡辺並びに右同乗者らの利益のためになされたもので、その間の事情については右同乗者も十分承知していたものと推認すべく、かかる場合被告朝陽物産は右亡啓視並びに同富子に対しては運行供用者としての責任を負わないものと解する。

(被告らの主張一について)(編注・被告小倉聯合紙器の自賠法第三条但書の免責要件の主張)

本件事故に関し、甲車の運行上被告高橋に過失のなかつたこと、本件事故が専ら亡渡辺到の過失に基づくことは前記の如く認定ずみであり、その余の点については、<証拠>によれば、この点についての主張事実を認めることができ、他に右認定を覆すにたる証拠はない。

(請求原因五――原告らの受けた損害について)

(一)  原告大西利雄について(葬儀費用)

一般的に、不法行為によつて被害者のために遺族が負担した葬儀費用を、加害者が賠償すべきものと解せられるところ、<証拠>によれば、亡大西啓視はその死亡当時その実母である原告大西栄及びその夫である原告大西利雄と生活を共にし、原告利雄とも実父子同然の生活を続けていた事実を認めるに難くないのであるが、同居の実母栄が生存する限り、原告利雄が亡啓視の葬儀費用を負担したとしても、その名において遺族として加害者に対しその賠償を求めることはできないと解するので、この点に関する原告大西利雄の主張自体理由のないことに帰する。

(二)  原告大西栄について。

(1)  得べかりし利益の喪失

<証拠>によれば、亡啓視(昭和一六年一月五日生)は、昭和三八年三月中央大学経済学部を卒業し、同年五月訴外下関合同葬儀株式会社に就職し本件事故当時勤務(一時右会社を退社し昭和四〇年八月再度右会社に就職していた。)していたが、右啓視は死亡当時、給料、手当として少なくとも月平均金二万円、当直料、食卓料などの名目で平均金八、二〇〇円を得ていた外、右会社の当時の慣例によれば賞与として少なくとも年平均金八万円の支給を受け得ることになつていたので、右年収合計金四一万八、四〇〇円から生活費として必要と考えられる年額金一八万円を控除すれば純収益(年額)は金二三万八、四〇〇円となること、右啓視が生存していたら右会社に引続いて勤務し、昭和四三年五月頃からは給料、手当並びに当直料、食卓料などを合算して少なくとも月平均金四万円、他に賞与として少なくとも年平均金八万円の合計金五六万円の年収を得るものと推認でき、これから生活費として必要と考えられる年額金二四万円を控除すれば純収益(年額)は金三二万円となることを認めることができ、他に右認定を覆すにたる証拠はない。

而して、本件事故当時満二五歳であつた亡啓視が、本件事故がなかつたならば就労して右程度の収入をあげ得るのは、平均余命年数(四五、五〇年―昭和三八年度簡易生命表参照)内である満六三歳位までの三八年間であると考えるのが相当である。従つて右啓視の右稼働可能年数中の(一)昭和四一年四月三〇日から昭和四三年四月三〇日までの約二年間における得べかりし純利益金四七万六、八〇〇円(238,400円×2(年))並びに(二)同じく同年五月一日から三六年間における得べかりし純利益金一、一五二万(32万円×36(年))からそれぞれ年五分の割合の中間利息をホフマン式計算法により控除するとその現在価格はそれぞれ金四四万三、七七五円、金六、一一四、八二五円で合計金六、五五八、六〇〇円となる。なおその算式はそれぞれ次のとおりである。

(一)の現在価格=238,400円(年収)×(年利5%,期数2の単利年金原価率)=238,400円×1,86147186=443,775円

(円未満4捨5入,以下同様)

(二)の現在価格=32万円宛38年(2年+36年=38年)間継続する年収的純益の現価から,32万円宛2年間継続する年収的純益の現価を引いたものに等しい((1)−(2))。

(1)32万円(年収)×20,97029873(年利5%,期数38の単利年金現価率)=6,710,496円

(2)32万円(年収)×1,86147186(年利5%,期数2の年利年金現価率)=595,671円

(1)−(2)=6,114,825円

(被告らの主張二――被告渡辺両名の過失相殺の主張について)

<証拠>によれば、この点に関する同被告ら主張事実(亡啓視が亡渡辺をドライブに誘つたとの点を除く。)を認めることができ、かかる亡啓視の同乗行為(当夜行動を共にした友人としての)は過失相殺の対象となし得るものとするのが相当である。

従つて、この点を斟酌すれば右得べかりし利益は金二五〇万円とするのが相当である。

なお、原告大西栄が唯一の相続人として亡啓視を相続した点は当事者に争いがない。

又、原告大西栄が本件事故について自動車損害賠償保障法に基づいて保険金二〇〇万円を受領したことは当事者間に争いがないのでこれを右二五〇万円から控除するとその残額は金五〇万円となる。

(2)  慰藉料

前記認定の如き本件事故発生に至るまでの事情、殊に亡啓視が前記の如く亡渡辺到運転の乙車に同乗したこと、本件事故の態様並びに亡啓視の年令、学歴等一切の事情――殊に過失責任者である亡渡辺到は本件事故により即死している――を綜合考慮すれば、亡啓視の母である原告大西栄が本件不法行為によつて蒙つた精神的苦痛に対し、亡渡辺到の相続人であるその父母被告渡辺両名から支払を受くべき慰藉料は金五〇万円を相当とする。

(三)  原告越智両名について。

(1)  得べかりし利益の喪失

<証拠>によれば、訴外越智富子(昭和二一年二月二〇生)は下関市彦島中学を卒業後、昭和三九年一月一〇日から同市南部町所在バー「カラー」にレジー係として住込で勤務し(これらの点は当事者間に争いがない)、本件事故当時給料として月金一万八、〇〇〇円(食事付)、賞与として年金三万円(金一万五、〇〇〇円を二回)の合計金二四万六、〇〇〇円の年収を得ており、これから生活費として必要と考えられる年額金一二万円を控除するとその純収益(年額)は一二万六、〇〇〇円となり、将来においても結婚すると否とにかかわらず少なくとも右程度の純収益をあげ得るものと認められ、他に右認定を覆すにたる証拠はない。

而して、本件事故当時満二〇歳だつた亡富子が、本件事故がなかつたならば、就労して右程度の収入をあげ得るのは、平均余命年数(五四・七〇年―前同)内である満六〇歳位までの四〇年間であると考えるのが相当である。従つて、右富子が、右稼働年数内において得べかりし純利益金五〇四万円(126,000×40(年))から年五分の割合の中間利息をホフマン式計算法により控除するとその現在価格は金二七二万六、九七〇円となる。

なおその算式は次のとおりである。

現在価格=126,000円(年収)×(年利5%期数40(年)年の単利年金現価率)=126,000円×21,64261512=2,726,970円(円未満4捨5入)

(被告らの主張二――被告渡辺両名の過失相殺の主張について)

前記認定の如亡富子の同乗行為(お客に誘われたバーの従業員としての)の点を斟酌すれば右得べかりし純利益は金二〇〇万円とするのが相当である。

なお、原告越智両名が亡富子を各相続分(各二分の一)に応じて相続した点は当事者間に争いがない。

又、原告越智両名が、本件事故について自動車損害賠償保護法に基づいてそれぞれ保険金一〇〇万円を受領したことは当事者間に争いがない。そこで、これら原告越智両名が相続した前記得べかりし純利益各金一〇〇万円(過失相殺したもの)から控除すれば、右原告らの各残額は零となる。

(2)  慰藉料

前記認定の如き本件事故に至るまでの事情、殊に亡富子が前記の如く亡渡辺到運転の乙車に同乗したこと、本件事故の態様並びに右富子の年令、学歴等一切の事情――殊に過失責任者である亡渡辺到は本件事故により即死している。――を綜合考慮すれば、亡富子の父、母である原告越智房好並びに同越智としえが本件不法行為によつて蒙つた精神的苦痛に対し、亡渡辺到の相続人であるその父母被告渡辺両名から支払を受くべき慰藉料は各金五〇万円を相当とする。

以上の認定によれば、被告渡辺敏雄並びに同渡辺定子は、本件損害賠償として原告大西栄に対し各金五〇万円、原告越智房好に対し各金二五万円、同越智としえに対し各金二五万円及びこれらに対する本件不法行為の後である昭和四一年四月三〇日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金を支払う義務があるというべきである。

よつて、原告らの被告らに対する本訴請求は右認定の限度で正当であるから認容し、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言、同免脱の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。(雑賀飛竜 田尻惟敏 久保田徹)

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